最近のクラシックや、所謂ヤングタイマーだのネオ・クラシックだのの価値の高騰からか、何年もの間仮死状態にあった自動車をたたき起こしてほしいとの依頼が増えてきました。
オドメーターに刻まれた距離は10,000 kmや30,000 km。
30年ほどの間に稼いだ距離としては極端に短いものです。(中には距離計が改竄されているものもありますが)
そんな中で今回のFerrari 328のエンジンO/Hのご依頼です。
ケチな中古車屋の「取り敢えず動くようにして売り逃げ」パターンではなく、きっちり費用を掛けたご依頼です。
過去に気休め程度のシール類の交換をされた履歴があります。
こういう場合、以下の画像のようなパターンが多いです。
カムシャフト・シールのキャリアです。どこの「プロ」がやったのか知る由もありませんし、興味もありませんが、安く上げようと思うとこんなもんです。
今はどうか存じ上げませんが、正規ディーラーや、一部の専門店ではこのようなことをする方はいなかったように思います。
理由の一つとして、純正やそれ相当のSST(スペシャル・サービス・ツール)を使用されることがあると思います。
地方の「たまに輸入車もやります」程度のショップが、5年に一回しか入ってこない80年代のフェラーリ用のSSTをいちいち用意すると思いますか?
画像のように、適当なマイナスドライバーを突っ込むことが目に見えています。
こうやって、整備に出す度にじわじわとレイプされていきます。
ピストンの磨耗は、ほぼありません。
ウェット・ブラストでこの通り、新品のようです。
上の画像はメインのオイル・ギャラリーです。
クランク・ジャーナルにオイルを供給する頚動脈です。
「バリ」が見えますでしょうか?
今の基準では考えられませんが、同じようなバリがこのエンジン全体に点在しています。
まあ、当時のイタリア人の仕事なんてこんなものでしょう。当時常勝を誇ったF1とプロダクション・モデルのフェラーリはクオリティー・コントロールの面では何の関係もありません。
案の定、結構な量のバリと削りカスが各部ジャーナルから出てきました。
結果、20,000 kmほどの走行距離でも、メタル類は全滅。ヘッド側のカムシャフト・ジャーナルにまで大きな傷を残しています。
昔はレースやチューニングの世界ではバリ取りだの、ブロックの砂落としだの、徹底的な洗浄だのは当たり前のことでした。
「フェラーリはメタルが弱い」だの何だのと知ったかぶりする方は多いですが、欧州車で採用されているメタルのメーカーなんて限られています。
メタル・メーカーのせいではなく、フェラーリでエンジンを組んだ人達、もしくはバリ取り担当のババアのせいでこうなっているのです。
ちなみに、上の画像で下に見える大きなゴミは液体ガスケットのカスです。
古いガスケットを再利用するためにベタベタと黒や朱色の液体ガスケットを塗られているのをよく見ますが、
こういう弊害があるのです。このゴミがオイル通路にはまってしまうと即潤滑不良で焼きつきが発生します。
上の画像は実際にオイル・ラインから出てきたバリです。
80年代のフェラーリの場合、「エンジンのO/H」と聞いて、想像できる範囲の作業以上のことをやらなければ、遠くない将来に再び同じことをすることになるでしょう。
私が80年代のフェラーリを買ったなら、例えそれの走行距離が5,000 km だとしても、まずはエンジンを全バラして、きっちりバリを取り、徹底的に全てのオイルラインを洗浄します。
バルブガイドは、そもそもの品質が話しにならないので素材を替えて作り直し。
そして画像のヘッド・スタッドも迷わず交換です。
該当エンジンは、メタルのガスケットに交換されていましたが、ケチってボルトを再利用したためか、ウエストがくびれてしまっています。
こんなモンでちゃんとヘッドを締め付けることができるわけありません。
純正の新品もクズ同然なので、今回もスペシャル・オーダー品にて対応します。
フライホイール・ハウジングまでピカピカに仕上げます。
当時の新車よりも優れたエンジンに組み上げることは、80年代のフェラーリに関して言えば簡単なことです。
ちゃんと、やるべきことをやればいいのですから。
以上「バルタイ調整に命懸ける」よりも先にやるべきことがある、というお話でした。