Virage 整備記録

2019年2月7日

W109 300SEL 6.3

「黒煙が気になるからアップデートしたい」とのご依頼です。

オリジナルに拘らないので安心して乗ることができて、ガレージの壁が汚れないことを望まれる。そういうご依頼理由に惹かれます。

オイルパンとエンジンハンガーを削り出して、M119の6リッターか、M120 V12のインストールも考えましたが、やはり60年代後期のアイコンであるこのエンジンをそのままベースにして、現代の技術にてアップグレードすることになりました。

リアがお座りしてしまっているのはまた別のお話。これも全く新しいアプローチにてアップグレードします。「今は問題ない」エアサスもオリジナルのままでは心許ありません。

過去アメリカのショップがM100エンジンの電子制御化を行なったものの、オリジナルのメカポン仕様に比べてトルクが薄くパワーも落ちてしまったためスーパーチャージャーを足したというまあまあオモロイ話があります。現代のソレノイド式のインジェクターの特性を理解した上で、何を選択し、どこに取り付けて、どの方向に向けて噴射するかを考えればそのような結果にはならなかったでしょう。オリジナルのメカポンが現代の電子制御に勝っていることは何一つありません。

今や何か新しい技術を導入して、それを機能させることは然程難しいことではありません。しかし、前述のアメリカ製のものは見るに堪えない醜いものでした。アレならいくらパフォーマンスや信頼性が向上しようともオリジナルをキッチリ直していい状態をキープするように心掛けたほうがマシです。

また、技術的にそれの実現ができないくせに「オリジナル至上主義」を高らかに謳い、中途半端な設備で中途半端な整備しかできないショップは更に醜いものだと個人的には感じています。やるならボルト一本までオリジナルに拘り、常に良いコンディションを保てるものであるべきではないでしょうか。

今回のテーマは(毎回そうですが)「シンプル」に纏めること。

いつ壊れるか分からない部品を排除して、機能的にも見た目にもシンプルで美しいものに仕上げます。あれやこれやを足していくのではなく「引き算」をしていきます。具体的に言えば、大掛かりで複雑な複数の機械でやってきたことを、シンプルで小さな電子デヴァイスで纏めるということです。

こういうことを書くと、巷で下手すりゃあ「神」と崇められているようなベテランのオッサンが「味が無くなる」なんてことをおっしゃいます。

しかし、私達が行うことは本来そのエンジンや自動車が持っているポテンシャルを引き出してあげることです。当時の技術や材質、素材等の限界により、やむを得ず設定されている様々なリミットを解除してあげることです。

ただ、見た目は極力変えずに、替えた部分は違和感が無いようにきれいに纏めていくよう尽力します。画像に写る象徴的なインテークもそのままに電子制御化します。